Melos Dance Experience 第2回公演にゲスト振付家としてお迎えした中村恩恵さんに今公演のために創作くださった新作「A Pilgrimage」についてお話を伺う機会をいただきました。
ー 今回のメロスダンスエクスペリエンス公演は STAGE1、STAGE2、STAGE3 と段階的にクリエイション・公演を重ね、実験段階を経てより質の高い作品創りを目指した長期に渡る公演企画ですが、今回のプロジェクトへの振付をお引き受け下さいました理由をお聞かせください。
主催者の土井由希子さんのお人柄に惹かれたからです。静かな佇まいの土井さんの内に宿る熱い思いがメロス公演に人を引き寄せる力となっていると思います。プロジェクトの中心的なコンセプトに「信頼」を掲げるメロス。この企画に対する土井さんのお気持ちに答えられる様に振付家として励んで行きたいと思っています。
ー 今回の新作「A Pilgrimage」についてお話しいただけますでしょうか。
まず初めに、「巡礼」というキーワードをめぐっての創作を行いたいというインスピレーションが降って来ました。創作の過程が、何処にあるかも解らぬ自分の聖地に向けて一歩一歩を踏み進めて行くことに繋がる、その様な作品作りをしたいという気持ちが今回の作品のスターティングポイントです。
ー ステージ1ではオーディションで選ばれたダンサー達と0からのクリエイションでしたが、どのような創作のプロセスを経てステージ 1 (実験公演) の作品を完成されたのでしょうか。
まずは、第一回目のリハーサルでダンサーの一人一人に白紙とペンを持って頂きました。そして「巡礼」という言葉から連想を自由に広げた言葉の地図を描いてもらいました。豊かな語彙で複雑かつ精密に作られた地図も、また非常にシンプルな地図もありました。そして、私はそれらの言葉を頼りに、ダンサーの一人一人に動きのマテリエルを作り、それらを立体的に構成して作品として纏めて行きました。
ー 5月19日にステージ1を終え、現在ステージ2 のクリエイションに入られていると思いますが、実際に舞台での本番を行うことでみえてきたこと、新たに創作のアイディアなどが湧いたり、ステージ2の実験公演で試してみたいと思われたこと、ステージ 3 へのビジョンについてお聞かせいただけますでしょうか。
ステージ1を客席から観た時に、作品において最も大切なことは空気感であると痛感しました。舞台における空気感とは、ダンサー一人一人がどのような意識でもって舞台に立っているかによって生まれるのだと思います。 ステージ1の為に、まずはマテリアルを作ったり、ストラクチャーに組んだりという事に取り組んで来ましたが、ステージ2に向けては毎回リハーサルの初めにしっかりと中村メソッドのクラスを行うようにしました。クラスの中では、身体を通じて空間や時間を繊細に捉えてゆくこと、また動きの中に「実直さ」を探ることなどを心掛けています。ステージ2では、どのような空気感となるのか楽しみでもありまた怖くもあります。
ー ステージ2はどのような実験公演になりそうでしょうか。ステージ2 の中でしか観られない新たな試みなど、ステージ1から次の段階へ進んだ作品の見どころを教えてください。
ステージ1では小物を用いるシーンがありましたが、ステージ2ではその場面を抽象化してみました。具体的なものが無くなっても、それを巡る人間関係やそこから生まれる感情や緊張感を表せるのかチャレンジです。
ー 最後に今回の公演に限らず作品を創られる際に大切にされていること、作品の質をより良いものにしていく為に大切にされていることなどについて伺わせてください。
まずは直感を大切にしています。作品を創っていると、作品は何者かによってすでに完成されており発掘されるのを虚空の中で待っているかのような感覚に見舞われます。辛抱強く心の耳をすまし魂の触角を立ててて取り組む必要があります。また、作り手と演者と観る者の3者を結ぶ共通項、もしくは共通言語を模索する努力が欠かせないと思います。そうした模索が、作品に人類の共通分母を宿らせることになるのだと思います。
中村 恩恵 / Megumi Nakamura ローザンヌ国際バレエコンクールにてプロフェッショナル賞を受賞後、モンテカルロバレエ団を経て、イリ・キリアン率いるネザーランド・ダンス・シアターに所属し活躍。2007年に日本へ活動の拠点を移した後も、ダンサー・振付家として、新国立劇場バレエ団、Kバレエカンパニー、パリ・オペラ座のダンサーなどに作品を提供。首藤康之との創作活動も積極的に行っており、「Shakespeare THE SONNETS」(新国立劇場)など多くの作品を上演。16年より新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future 」のアドヴァイザーを務める。また、キリアン作品のコーチも務め、パリ・オペラ座をはじめ世界各地のバレエ団や学校の指導にあたる。第61回芸術選奨文部科学大臣賞、18年紫綬褒章、第67回神奈川文化賞など受賞多数。 |